読んだ本の感想とか

「痙攣的」鳥飼否宇 現代美術やロックをテーマにした連作短篇集。 芸術にも音楽にも疎い私でも楽しめた。しかし、まさかこんな実験作とは思わなかったが。イカ? 系譜としては、山口雅也の「ミステリーズ」や法月綸太郎の「パズル崩壊」などの「前衛芸術的本…

「ベルカ、吠えないのか?」古川日出男 記憶力のないわたしには家系図が欲しかった。じじいがカッコイイ。稲見一良みたいな。二十世紀をイヌ(軍用犬)を軸にして捉え直す的な見方をすると、断片的に過ぎる気がします。

更新が面倒なので一言ずつ。 「ギブソン」藤岡真 「ゲッベルスの贈り物」と同じ様な印象。中身が空疎になるよう、狙って造ってるんですな。

「ヴィーナス・プラスX」シオドア・スタージョン 国書刊行会「未来の文学」第四回配本。タイトルは天文学の記号。 このレーベルで出てきた今までの作品とは一味違う一冊だった。なぜならこの作品、まともなSFのカタチを保っています。「ケルベロス第五の首」…

「光の王」ロジャー・ゼラズニィ 卓越した科学技術を有し、その力で世界を支配する神々(の名前を冠する超人)の壮絶な内輪モメを、やたらとキラビヤカに装飾された文章で綴った伝奇SF。インド風の名前で呼ばれる超人たちが、外科手術や薬物投与によって手に…

「反対進化」エドモンド・ハミルトン SF短編集。本書に収録された作品のほとんどは素朴なSFなので、SF初心者でも気軽に楽しめる本になっています。 根幹となるアイディアは、当時としては画期的なモノだったのかもしれませんが、今日のSF作品群と対…

「ユグノーの呪い」新井政彦 この本はある方からの頂きものであります。この場を借りてお礼を申し上げます。でもいただいた経緯は割愛。 本書は近未来を舞台にしたSFミステリ(ちょっとハードボイルド風味)で、作品が持つ雰囲気は我孫子武丸の「〜の街」…

「アルファベット・パズラーズ」大山誠一郎 本格ミステリ。登場人物の造型がおざなりだとかプロットそのままで肉付けがないとかケチをつけようとすればいくらでもつけられる作品であろう。しかし、そのような減点法の採点は本書を評価するのにあまりにも不向…

「妖女のねむり」泡坂妻夫 ミステリ。表面にあらわれる幻想的な現象と水面下でおこなわれている複雑な操作、本書はその対比が魅力となっている。このプロットは鬼です。伏線も凄いし。特に最後になって回収される伏線はかなり驚いた。こんなに驚いたのはS・A…

「新・世界の七不思議」鯨統一郎 れきしみすてり。「邪馬台国はどこですか?」の姉妹編に位置付けられる連作短編集。前作よりも引用される文献や資料は少なめになっており、作者独自の歴史解釈の占める比重が高くなっている。その結果、よりアクロバティック…

「魔法」クリストファー・プリースト ふぁんたじぃ小説。ハードカバーで買おうかどうか悩んでいたので出て個人的にうれしかった本であります。前に読んだ「奇術師」(本書の方が古い作品です、念のため)のように冒頭から思わせぶりな展開を遂げるわけではな…

「嗤う伊右衛門」京極夏彦 その充足、達成の過程において他を顧みることのない欲望に支配された登場人物たち。その中において主人公である伊右衛門と岩たちが育むのはお互いの精神を尊重する「純愛」であり、だからこそその「純愛」っぷりが強調されていると…

「消えた玩具屋」エドマンド・クリスピン おバカなドタバタが楽しかった。それだけ。 ってだけですませるのも、もったいないので補足しておく(古本屋でそこそこの値段だったから)。冒頭の「なんで玩具屋が消えたのか?」という謎や犯行時に用いられたトリ…

「ゼウスガーデン衰亡史」小林恭二 清涼院流水の「JDCシリーズ」を髣髴させるところが多々あった。たとえば、どちらも社会構造自体を変革させてしまうような組織、施設が現代に出現する話だし(大雑把過ぎ)、マクロレベルで起こる社会現象とかミクロレベ…

ネタバレ上等!な人だけ読んでください

「ドゥームズデイ・ブック」コニー・ウィリス 私の周りでのコニー・ウィリス評価 某じゅんさん曰く 「宮部みゆきとか好きな人が好きそうだよね」 ふむふむ、確かに女流作家らしさが滲み出る作品ではあります。 某番長曰く 「なんか…気持ち悪いんだよなぁ。面…

「鬼の探偵小説」田中啓文 本格伝奇ミステリ。設定がすごい。主人公の表向きの職業は所轄署の捜査一課に属する刑事なのだが、その正体は住処を追いやられ人里に出てきた「鬼」。自分が「物っ怪」であることを周りの人間たちに見破られないように心を砕きつつ…

「幼年期の終わり」アーサー・C・クラーク SFの古典的名作長篇。こーゆースケールが大きくて結末が抽象的な作品には、この時期に書かれたSF特有の「空気」が備わっていると個人的には思う。つまり「科学的発展、成長ヘの漠然とした期待感」みたいなの。…

「蘆屋家の崩壊」津原泰水 短編集。ユーモラスかつなぜかつかみ所がない作品が多い。(このブログでよくしているような)ガジェットを手がかりに作品を説明する方法ではこの作品の面白さは語り難い。印象としては京極夏彦の作品をあれほど饒舌でなくした感じ…

「死のロングウォーク」スティーブン・キング 恩田陸「夜のピクニック」読了記念として本書を手にとってみました。 近未来のアメリカで開催される国民的イベント「ロング・ウォーク」に参加した少年達の物語。この「ロング・ウォーク」、ルールがかなりシビ…

「首断ち六地蔵」霞流一 連作ミステリ短編集。作者が「毒入りチョコレート事件」を念頭おいたと語っており、謎の解決に関する仮説がどんどん出てきてはそれが覆されるといった展開はたしかに圧巻である。しかし仮説が覆される際に提示する反証に伏線がなく、…

「支那そば館の謎」北森鴻 京都を舞台にしたユーモア短編ミステリ集。前職のスキルを活かして事件を捜査する元泥棒の寺男(犯行後逃走中に怪我をして身動きがとれなくなっているところを住職に助けられて改心した)とか作者本人がモデルと思しき推理小説家(…

「時間のかかる彫刻」シオドア・スタージョン しつこいようだがSF短編集。ラブとノイローゼとアイロニーの作家スタージョンの紡ぎ出す幻想的な小話たち。いや、幻想ってよりも妄想に近いか。オルタナティブなアイロニーがいっぱい出てきてくるんでこの作家自…

「デッド・ロブスター」霞流一 久々に国内本格ミステリ。今回のテーマは「エビ」であり、「エビ」に関するペダントリーに満ちた作風は毎度お馴染みの展開を遂げる(もちろん今回も○○が飛ぶ)。ストーリィテリングはお世辞にも上手いとは言えないし、ギャグも…

「銀河帝国の弘法も筆の誤り」田中啓文 バカSFというか駄洒落SF短編集。題材は真っ当なSF(のオマージュ)なのに、それを次から次へと駄洒落に変えていく展開には唖然を通り越してもはや感心してしまう。オチも綺麗に(すべてではないが)駄洒落でまと…

「春季限定いちごタルト事件」米澤穂信 北村薫かと思って手にとったら中身はケメルマンだった。ラストの短編はまんま。しかし米澤作品の登場人物には嫌なヤツが多いなぁ。今作の主人公たちも、はっきり言って鼻持ちならない奴らだった。でも読んでいてもあま…

「フリークス」綾辻行人 表題作は完全に作者の趣味で書かれた短編。別にわざわざフリークスを登場させなくとも、作中作(「どんどん橋」系の犯人当て小説)の問題は作れるだろう。こういうところから綾辻のガジェット志向が伺える。一文一文が比較的短くて常…

「つぎの岩につづく」R・A・ラファティ SF短編集。いつものとおりトールストーリー風のフォーマット内に膨大な科学知識で裏打ちしたSFアイディアをぶち込んだ作風が楽しい。ラファティの作風って非常に特異だと思う。トールストーリーが持つ荒削りだけどプリ…

「西城秀樹のおかげです」森奈津子 間があきすぎて書こうと思っていたことを忘れてしまいました。。。 すいません。 「富豪刑事」筒井康隆 ドラマ化するとは知らずに読んでて、読了したあと新聞のラテ欄みて驚きました。まさか深キョン主演だとは。 本書は推…

森奈津子「西城秀樹のおかげです」のさらにつづき 登場人物ではなく読者がツッコミをいれることによって生じる効果がここにある。つまり読者に対して、おのれのツッコミの「基準」や「根拠」を自覚させやすくなり、自覚させることによって(「基準」や「根拠…

森奈津子「西城秀樹のおかげです」のつづき 「主人公がツッコミ」という作品で主人公がツッコミを入れること、それはつまり作品内の過剰な、誇張された欲望に対して常識が反撃を試みることである。ここでの主人公は読者の代弁者として存在する。一般的な常識…