支那そば館の謎」北森鴻
京都を舞台にしたユーモア短編ミステリ集。前職のスキルを活かして事件を捜査する元泥棒の寺男(犯行後逃走中に怪我をして身動きがとれなくなっているところを住職に助けられて改心した)とか作者本人がモデルと思しき推理小説家(金に汚いバカミス作家として登場)などといったようにキャラクター造型が従来の北森作品よりかなりくだけた感じになっている。
本書は(探偵の)特殊な知識が事件の謎を解くカギになる、といったタイプのミステリである。この手の作品の多くは「そんな特殊な知識を必要とするなら読者に解るわけないじゃないか」というツッコミを受けやすい。「トリビア」とか「ウンチク」が流行する現在、一種の情報小説としてミステリを読むという愉しみも一般的になっているかもしれないが、本格ミステリならばやはりそういう知識を用いる必然性は内包しているべきだろう。本書では「京都人ならではのローカルな知識」が犯人や詳しい犯行状況の特定に使われるというかたちで、表紙にある「裏京都ミステリー」という言葉が物語の本質を表わしていることを読者に理解せしめている。言い換えれば、本書は事件ひいては物語を根源的な部分から「京都」をテーマにして書かれている作品なのである。この「テーマ」の存在が本格ミステリにおいて「特殊な知識」を用いることの正当性を保証しているのだと思う。もちろん某京極作品のように「特殊な知識」に関する解説を事件に先立ってしてしまうという手法もアリであるし、そのほうがフェアな気はするけど。
支那そば館の謎―裏(マイナー)京都ミステリー