バカSFというか駄洒落SF短編集。題材は真っ当なSF(のオマージュ)なのに、それを次から次へと駄洒落に変えていく展開には唖然を通り越してもはや感心してしまう。オチも綺麗に(すべてではないが)駄洒落でまとめ、一貫した作風が非常に心地よかった。国内SF(とくに短編)にはおバカな作品も多いし(海外もか)「バカ」とSFは水が合うのでしょうな。
ちなみにミステリはその本質が「バカ」と紙一重なので殆どすべてのミステリが「バカミス」たりえてしまい、その事実によって「汎バカミス論」が普及しやすい土壌が造られていると思われる。それに対してSFには「バカ」の要素の入る余地が少ない作品も多いような気がする。なんでかは後で考えよう。

SF短編(中編?)集。しかしティプトリーの作品は面白い。プロットと科学理論のそれぞれが完成度高い上に、それがちゃんとテーマにリンクしてるとことか、小説表現のバリエーションも豊富なとことか。前にアシモフが「SFの対象になる科学の推移」について言ったことをもう一度思い出してみると、ティプトリーの作品にはその三つの科学(自然科学、社会科学、人文科学)が全部含まれていることに気付く。やっぱりすげェ。あと、ジェンダーテーマSFの書き手でこの人ほど凄みを感じさせる作品を書く人、そうはイナイでしょうしね。書き方に容赦がなくって、しかも淡々としている。人間性を超越してる感じ?
以前Kちゃん先輩が「ティプトリーの作品は格好良い」と評しておられた。私もその意見に同意である。しかもただの格好良さではない。世に格好良いSFは多く存在するけれど、その殆どが「格好つけている」SFである。それにひきかえティプトリーの作品は「格好つけようとしなくても格好良くなってしまう」SFってところだ。
われながら抽象的だなぁ。
ちなみにペンネームの由来は有名なジャムからきているそうな。私は食べたことないですけど。