森奈津子西城秀樹のおかげです」のつづき
「主人公がツッコミ」という作品で主人公がツッコミを入れること、それはつまり作品内の過剰な、誇張された欲望に対して常識が反撃を試みることである。ここでの主人公は読者の代弁者として存在する。一般的な常識の持ち主であると仮定される読者に成り代わり、「常識」から考えられる性癖とは異質な欲望たちにツッコミを入れる。そしてその主人公たち(欲望の当体に、ではなく)に読者が共感を覚えると、対比として描かれる欲望の異質性が強調、指摘されるのだ。
それに対し、「主人公が変態」な作品において、ツッコミ役を担うのは登場人物ではなく読者自身である。小説内世界で異様な欲望が描かれれば描かれるほどに、読者は主人公を含む登場人物や世界観に対して激しくツッコミをいれることであろう。では、そのツッコミの根拠となるものは何であろうか。答えは先ほども述べたように、読者自身の「常識」だ。つまり「常識」からは異質なものに対して我々はツッコミをいれるのである。