ユグノーの呪い」新井政彦
この本はある方からの頂きものであります。この場を借りてお礼を申し上げます。でもいただいた経緯は割愛。
本書は近未来を舞台にしたSFミステリ(ちょっとハードボイルド風味)で、作品が持つ雰囲気は我孫子武丸の「〜の街」シリーズに似たところがあります(余談ですが、この作品の最初の章を読んだとき、「クリス・クロス」の冒頭シーンが思い浮かびました。どっちもバーチャルリアリティ空間での話だしね)。
小説としての基本的なスペックは高く、文章力も世界観の構築能力も新人離れしたレベルを保っています。ですが、どこかで読んだことのある設定と、一昔前のセンスでなされる会話と、オッサン臭い視点で描写される登場人物たちが作品の魅力を半減させています。構成も前半はまだしっかりしているのですが、後半息切れしたのか真相を細切れに展開してしまい、クライマックスのどこに力点が置かれているのかよくわからないです。
あと、バーチャルリアリティ内の法則が読者に対してすべて事前に提示されているとは言いがたい点もマイナス評価です。なぜなら、上遠野 浩平の「殺竜事件」の失敗を見るまでもなく現実の世界とは違うリアリティを有している世界での事件ではその(現実の世界とのリアリティの)差異が真相に到達するために必須の知識と密接に結びついていることが望ましく、その知識を読者に対して示唆せずにいることはアンフェアの謗りを免れない行為であると考えるからです。ぶっちゃけ、アンフェアであるだけなら別に構わないのですが、そのアンフェアさが美しく作用していないのはいただけません。
結論としては、完成度はそこそこだけど突き抜けたところもない作品ってところですね。新人賞としてそれでいいのでしょうか、という疑問が浮かびました(大きなお世話だろうが)。