ハナシにならん!―笑酔亭梅寿謎解噺〈2〉 (笑酔亭梅寿謎解噺 (2))

ハナシにならん!―笑酔亭梅寿謎解噺〈2〉 (笑酔亭梅寿謎解噺 (2))

ミステリ。
ダジャレの王様、田中啓文の最新作は落語をモチーフにしたミステリ連作短編集の第2弾。本書は副題に「笑酔亭梅寿謎解噺2」とあるとおり、笑酔亭梅寿、梅駆の師弟が活躍するシリーズの第2作目に相当する。
前作から今作までの筋を説明すると、
これっぽちも落語に興味をもたない天涯孤独の少年、風祭竜二がひょんなことから落語会の大御所、笑酔亭梅寿の内弟子になり、師匠の無体な仕打ちに愚痴をこぼしつつも次第に落語が持つ魅力に気づいていく、というもの。
落語の素人を主人公に据える事により、落語に明るくない読者でも物語に親しみを持ちやすいよう配慮されている。
この二作目では梅駆が新人演芸コンクールの全国大会に出場して惨敗するところから始まり、テレビやラジオの仕事で大失態を演じたりしながらも師匠や先輩芸人たちに見守られ成長していく過程を描いている。
この師弟愛や人情が本シリーズが持つ大きな魅力の一つである。メチャクチャな行動をとっていると思われた梅寿の隠された真意に思わずホロリとさられせて物語が終わったり、逆にいい話と思わせておいて最後にひっくり返してオチ、という構成だったりと、ハナシの中心に「愛情、人情」が置かれていることは間違いない。
本格ミステリとしての側面にも触れておくと、収録されている各編のタイトルが落語の題から採られていることからも推測できるように、作中に起こる事件や謎解きもその落語にちなんだ内容になっている。このあたりの趣向はマザーグースの詩歌を世界観の背景に持つ山口雅也の「キッド・ピストルズ」シリーズの各編を彷彿させる。謎の質としては逆説が多いのでチェスタトン泡坂妻夫が好きな人におすすめ。