「誰のための綾織」飛鳥部勝則誰のための綾織 (ミステリー・リーグ)
ミステリ。やりたいことは分かるんだけど、消化不良なところが多い作品ですね。
最初の場面で読者を身構えさせてしまう構成になっているので、勘のいい人とミステリずれした人には作者が何を仕掛けようとしてるのか丸分かりになってしまっている。そして作中作が始まって数十ページでもはや疑惑は半ば確信に。
それ以外にも捨てトリックがないがしろ過ぎる点や登場する絵画の絵解きがおざなりな点、探偵役が推理を開陳するあたりからそれまで存在していたホラーな雰囲気が雲散霧消してお気楽なコメディになってしまうあたり(これは故意に肩透かしをしているのかもしれない)も不満。
しかし、私にとって本書は好ましい作品に位置付けられるのです。
なぜかというと、本書の基本コンセプトである「テキスト外の情報による内容の補填」が、事件の真相とミスディレクションの二つに、しかも違うレベルで働いているところに心底ヤラれてしまったからである。このアイディアは(上手く料理できていないけど)本当に見事だと思う。
でも本格ミステリに思い入れのない人にはお薦めしにくい本であることも確かなのである。