バベル17 (ハヤカワ文庫 SF 248)「バベル17」サミュエル・R・ディレーニイ
SF。ディレイニーは敬遠していた今まで作家である。理由はなんとなく小難しそうな作風だと思ったから(だって大学教授だし)。実際に読んでみると(すこし衒学的なきらいはあるけれど)スペオペを基調にした普通のプロパーSFだった。主人公のリドラ・ウォン(美人の詩人)をはじめとする登場人物が非常に生き生きと描写されていて、言語を扱ったSFとしてのメインアイディア以外にも読みどころは多い。
そして本書のメインである「バベル−17」という言語、その扱われ方には舌を巻いた。主人公たちの旅の目的は「バベル−17」という言語の研究解明であり、「バベル17」が交わされ際に起きる侵入者の破壊活動の防止である。そして主人公たちが侵入者の策略によってピンチに陥ったときは、その危機を「バベル−17」を用いることによって脱する。と、このように物語の重要なファンクションとしてさまざまな形で「バベル−17」が顔を覗かせるのである。そして最終的にその「バベル17」という言語の持つ(もしくは用いることによって得られる)能力がどのような目的に由来するものなのかが明かされるにいたって、今まで「バベル−17」に対し読者が付与してきた意味が一変する。そのような認知構造の変換が本書の魅力一つになっているのだ。
それにしてもその言語で思考するだけで身体能力が向上したり、認識される時間や外界の情報がスローモーション化するってすごいよなぁ、これでジョウント能力も手に入っていたら人体改造までしたガリー・フォイルの立つ瀬がなかったぜ