どうにもならない日々(この日記は一部創作です)

 今日は友人と一緒にとんかつを食べに行きました。彼はサークルのとんかつ番長を自認する、自他ともに認めるとんかつ好きなのであります。早稲田通りを西進しつつ、彼はまだ見ぬとんかつを思い描きながら、楽しそうにハナウタ混じりの創作ダンスを踊っていました。
 高田馬場駅前の芳林堂があるビルを地下に潜ると我々の目指すとんかつ屋はすぐそこです。少々の待ち時間(夕食時で店内は混み合っていました)のあと、ようやく私達は座席に案内されました。彼がロースを、私がヒレを店員のお兄さんに注文しました。そして夢のとんかつタイム到来までのしばらくの間を、世間話で時間潰しすることにしました。
 世間話といっても、同じサークルに所属する間柄ですから、自然と話題はサークル関連へ傾いていきます。やれ「アイツはだめだ、使えないだけでなく不快だ」とか、やれ「みんなはバカにするが、あいつはもっと評価されるべきだ」などといった具合です。そんな毀誉褒貶が綯い交ぜになった複雑な議論を終えたころ、ついにとんかつ様が給仕の手によって食卓へ運び込まれてきました。
 私達はとんかつ様の筆舌し難い旨さに舌鼓を打ちつつ、ともに至福の時を(キャベツの千切りを合い間に入れつつ)過ごしました。
 すると、先程まで散々愚痴りあったサークルに対する不満など、どこか遠くの山の向こうまで吹き飛とんでいってしまいました。
聡明な私はこのことから、以下のような確信を得ました。
「世界中の人々がとんかつ様を食せるようになればきっと戦争なんて起こるべくもない平和な時代が訪れることでしょう」
 幸せの余韻に浸りながらお茶を飲みつつ、食したとんかつ様の感想を、お互いに述べ合いました。
 そして
「あのヒレかつ、柔らかかったですなー。箸で圧すだけで、簡単に肉が切れちゃいましたよー」
と私が言った瞬間、それまで穏やかであった彼の表情が一変しました。
「とんかつ番長である俺を差し置いてヒレかつか!俺はまだロースしか喰ったことないんだよ!!」
と仰るとんかつ番長。
前言撤回。
「世界中の人々がとんかつ様を食しても、松定食を食べられない人が不満を感じることでしょう」

今日読んだ本