双生児 (プラチナ・ファンタジイ)

双生児 (プラチナ・ファンタジイ)

SF。
世界幻想文学大賞受賞作「奇術師」が映画化されたことでも話題の作家、クリストファー・プリーストの最新訳小説。FT文庫でなくハードカバーの単行本で発刊された。ソフトもハードも重厚な作品となっている。

内容の説明に入ろうと思ったが、本作の内容は大変説明しにくい。なぜなら物語の軸が1つでなく、多様なリアリティを主張する記述が混在するためだ。

なら散漫な話なのかというと、そうではない。それぞれの記述が語るリアリティは一定の法則に従って存在しており、物語世界の全貌を把握することも(読解に対する努力を惜しまなければ)可能だ。

主流文学よりの作風といわれるプリーストだが、この法則の適用こそが本作をSFに留まらせている要素であると言う事が出来る。

ところで、プリーストといえば小説の冒頭部分を状況説明に費やし、読書に対するモチベーションをがんがん削いでくることでも有名だったが(「奇術師」や「逆転世界」で挫折した人は大体これが理由だろう)、この作品では最初から読者の気を惹くよう配慮された展開が遂げられている。冒頭における謎の提示といえば島田理論を思い浮かべるが、本作でも提示された謎は解体するのでご安心を。ただし、その解決を十全に理解するには積極的な読解が不可欠なので留意されたし。

最後に、本作の魅力について。

記述の体系としての美しさもさることながら、その体系を破綻させることなく成立させている設定の妙。それが本作の魅力だろう。
「英空軍爆撃機操縦士にして良心的兵役拒否者」という矛盾した存在、J・Lソウヤーとは何者だったのか、その謎をノンフィクション作家スチュワート・グラットンが解き明かそうとするが(ちょっと要約しすぎ)…といった単純な冒頭からは考えられない物語展開。複雑な構成に複雑な設定、さらにメタテキストまで混入してきて世界像の把握もおぼつかない記述。すべて説明可能なようでいて、自己完結することは決してない小説構造。
それらがもたらす快楽をぜひ味わっていただきたい。