「百万のマルコ」柳広司

百万のマルコ (創元推理文庫)

百万のマルコ (創元推理文庫)

ミステリ。
これまで手堅い(でも地味な)本格ミステリを上梓してきた作家、柳広司の手による最新短編集。
舞台は13世紀末のジェノヴァ。戦争捕虜として牢獄に入れられた若者たちは、その単調で刺激のない生活に暇をもてあましていた。だが、新たに入獄してきた捕虜<百万のマルコ>(マルコ・ポーロ)が語る不思議な話を聞いている内に、いつしか彼らはその話が内包する謎に関する議論に夢中になっていく。
各エピソードに登場する謎は一つ一つピックアップしていくとどれも小粒であり、クオリティ自体も玉石混交の嫌いが強い。例えば逆説としての洗練度はチェスタトンと比較にもならず、オチのスケールは泡坂妻夫に遠く及ばない。
しかし、本書の魅力は、小粒が故に持つ軽みにこそあるのではないだろうか。暇つぶしの為の小話という体裁や、素っ気ない語り口なども、その傾向に拍車をかけている。
個人的なお気に入りは、他と比して落差の激しいオチと伏線のヌケヌケ感が素晴らしい「色は匂えど」、定番のネタを上手く料理した「雲の南」、語りのレベル差を利用した余韻が独特な「ナヤンの乱」など。