夜は短し歩けよ乙女

夜は短し歩けよ乙女

恋愛ファンタジー。「片思い作家」と称される森見登美彦の最新作。妙に古臭い言い回しの(でも読みやすい)文体や、韜晦的な造形の男主人公など、作者の持ち味を存分に楽しめる作品に仕上がっている。
二人の主人公がともに荒唐無稽なキャラクターなのだけど、とにかく一人称の語りが楽しく、読み進めていくうちに自然と彼らに親しんでしまう。珍しく恋愛(ラブコメ)をメインに据えた物語である点もこの親しみやすさの一因か。ハッピーエンドだしね。
あと、古本市での我慢大会や学園祭におけるゲリラ演劇など変なイベントも目白押し。この学園祭シーンのように、日常と非日常の狭間のマージナルな空間を演出させると流石に上手い。出自がファンタジーノベル大賞であることにも得心がいこうというものだ。
読んでいるだけでここまで楽しい作品には滅多にお目にかかれるものではないだろう。読むという行為が快楽に直結しているような読書体験を得られた。2006年でもっとも楽しい時間を過ごした本。おすすめ。