目を擦る女 (ハヤカワ文庫JA)

目を擦る女 (ハヤカワ文庫JA)

仮想世界を舞台にしたSFを中心に編まれた短編集。作中人物に「仮想世界ばかりだと飽きられるぞ」と言わせてしまうほどにその使用頻度は高い。
この本の作者である小林泰三は大真面目な顔でとんでもないヨタを飛ばす作家である。収録された作品もホラーと笑いの両方の要素を有しているのが殆どだ。おそらく彼にとってその二つの本質は近しいものに感じられているのだろう。おのずと読後感も笑っていいのか怖がっていいのか判別しにくい形で認識されることになる。
それは喜劇は喜劇、悲劇は悲劇と割り切ることの容易であったフィクションになれた読者にとっては特異な体験になるだろう(と思う)。
小林泰三はそんな奇妙な(そして稀有な)作家である。