ミステリ界の巨人の一人であろう連城三紀彦の代表作。ちなみに初読。
連城三紀彦なんぼのもんじゃい」って感じで読み始めたのだが、読了後は「おみそれしました」と深く頭を垂れるより他ないオールタイムベスト級の短篇集であった。
収録された作品の多くは登場人物の内面に謎の焦点が存在するホワイダニットと内面の論理が発露した結果としてのハウダニットのミステリである。
作者はその凄まじい筆力で内面(及び派生する情景)を描き出し、読者と登場人物の感情をシンクロナイズさせるとともに、物語(犯行動機、論理)に説得力を与えている。
しかしそれだけではない。本作と作者のスゴいところは筆力に「自覚的」な点にあり、ミステリのファクターとして不可分なまでにその流麗な文章を効果的に用いていることに舌を巻く。
さらに各作品が収録された順番も奏功している(発表順だけど)。前半に収録された作品の筆と後半のそれとは作用するベクトルが違うが、描かれるもの自体にあまり変化がないため余計にその対比が生きてくるのである。
付け加え表題作の業の深さ、これが尋常ではない。読了すると登場人物と作者が二重写しとなって現前する。メタな仕掛けが小説世界のみならず作者と読者の関係ともアナロジーになっているのだ。ここまでくると作者の手腕はもはや魔術的ですらある。
まごうことなき大傑作。巽昌章の解説も含めて。
未読の方はとりあえず手にとってみることをお薦めします(ハルキ文庫版は品切れだが)。