■

「ニッポン硬貨の謎」北村薫
本格ミステリ。日本の新本格ミステリの書き手には「クイーンに対する敬愛や憧憬の念」を表明されている方が少なくありませんが、本書ほどその情念が全面に押し出された作品は少ないのではないでしょうか。とにもかくにもクイーンのエッセンスを（「これでもか」というほど）取り入れたパスティーシュ・ミステリの傑作である（すくなくともパスティーシュとしては）。探偵クイーンのキャラクター造型や持って回った文章表現、更には事件の発生→展開→解決の過程の見せ方、独我的な論理に支配された犯人像などクイーンファンならかなり楽しめる要素がてんこもりであります。ところどころ作者自身の作家性（のオリジナリティ）と、模倣に徹しようとする職人気質（ファン気質？）がせめぎあっているように見える箇所もありましたが。
残念ながら不満な点も、魅力的な点と同じくらいの数（←穏当な表現）あるのですが、それをいちいちあげつらっていては埒が明かないので主要なところだけをかいつまんで述べさせてもらうと、途中の「シャム双生児の謎」に関する発見と物語内で実際に起こる事件とが特に有機的な結びつきを有さないという点と、エラリイが事件に対してあまり当事者意識を抱いていない点が読んでいて非常に気になりました。泣けよ。