弥勒の掌 (本格ミステリ・マスターズ)
弥勒の掌」我孫子武丸
ミステリ。本書は異なる登場人物二人が(同一の新興宗教に関与していたらしき)近親者の失踪&殺人事件に巻き込まれていく様を描いたサスペンス色の強い作品である。
しかし一発ネタに偏向したプロットといい、主要登場人物の魅力の乏しさといい、「小説たけまる増刊号」に収録された短編群と同じような傾向のミステリで、ようするにあまりパッとしない。
我孫子という作家はもともと一発ネタに特化した作風の書き手ではあるけれど(近未来SFやキャラクター色の強い作品はまた別なのだが)今回は舞台設定のディテールも結末までの盛り上げ方も今ひとつでネタが生かしきれているとは言いがたい。
感情移入し難い、キャラとして魅力のない登場人物が物語内世界で何をしていようが瑣末なことに思えてきて、その結果として結末で与え得たであろう驚きを減じさせてしまっている。ある意味、説得力はあっても意外性のないトリックで、しかも小説としての作り(文章表現とか伏線の張り方とか設定のリアルさとか)がとりたてて美しい(読みごたえがある)わけでもない。
暇つぶしにかるーいミステリを読みたい人なら手に取ってみてもいいかもしれないけど、そういう向き以外にはあまり薦めません。
我孫子の他の作品、結構好きなんだけどね。かまいたち世代としては、久々に出た長編がこの体たらくというのは悲しい。