森奈津子西城秀樹のおかげです」
本書は同性愛や性的倒錯といった、性愛を基本テーマに据えSF短編集である。(タイトルからも推し量れると思うが)収録作品にはギャグ(「お笑い」と言い換えてもいい)を基調としたものが多い。と言うか、全部そう。もちろんお笑い系のSFはけして珍しくなくその歴史も古くまで遡れるが、今回は本書において「お笑い」がどういう役割を担っているのか、そして「お笑い」がどのような効果をもたらすのかを説明してみたいと思う。
まず本書においての「お笑い」はコント風の基本構造を有しているということを指摘したい。それはある人物がシュールな(ナンセンスな)行動をとると、違う人物がそれに対してツッコミを入れる、というかたちのものだ。ちなみにコントと漫才の違いは「特定のシチュエーションを設定した上でのロールプレイ」の有無だと思う。そしてコントにおける「ツッコミどころ(笑いどころ)」に相応するものが、本書の場合は倒錯的な性的欲望なのだ。つまり本書はそれ自身が持つテーマ自体を笑いものにしているのである。
つづいて収録されている作品群を2つに分類してみる。すると「主人公が変態」というものと「主人公がツッコミ」とに分けることが出来る。「主人公が変態」な作品では小説内世界にツッコミが存在せず、主人公は欲望の主体として思うままに振舞う。対して「主人公がツッコミ」という作品における主人公は欲望の当体に振り回される役どころとして存在し、往々にしてその主人公は欲望(の当体)に屈服して物語が終了する。