「陸橋殺人事件」ロナルド・A・ノックス

陸橋殺人事件 (創元推理文庫)

陸橋殺人事件 (創元推理文庫)

ミステリ。
本書は「ノックスの十戒」でお馴染みのR・A・ノックスの長編デビュー作。ちなみに本格ミステリのパロディとして不朽の名作と呼び声高い作品。
事件の舞台はイギリスの田舎町。ゴルフ場から程近い鉄道の陸橋の袂で、転落する際に顔を削られたらしき死体が発見される。素人探偵に憧れるモーダント・リーヴズとそのゴルフ仲間たちは、検死審での結論や警察の見立てを当てにならぬものと見なし独自の捜査を行うが、やがて彼らの推理と現実の事件の間に奇妙なねじれが生じてきて……
語り口は平易にしてユーモラス。なので、20年代に書かれたミステリにしてはかなり読みやすい。これは訳が比較的新しいこともあるだろうが、やはり作者の筆力の賜物だろう。リーヴズやカーマイクルが述べる推理のもっともらしさと、その推理が行き着く先の落差は爆笑もの。
「最後に読む本格ミステリ」というのが本書に付けられたキャッチコピーだが、言いえて妙である。ノックスは本格ミステリのマニアであり、本書もかなりプロットの複雑なハード・パズラーという体裁がとられている。もっとも、実際には犯人当て小説(フーダニット)をパロディ化した作品なので、いわゆる普通の探偵小説のような展開を期待すると、意想外な事件の決着に唖然とすることになるだろう。
真田啓介はアントニイ・バークリー著「最上階の殺人」の解説において、本書との関連――探偵が述べる推理の妥当性とその恣意性をクロースアップした作風――について述べ、先鋭性においてバークリーの方が優れているとしている。個人的にもそれには同意するが、容赦なく探偵小説を批判する側面の強いバークリー作品とは違った、ユーモラスで憎めない皮肉っぽさがノックス作品の魅力だと思う。
ありきたりなミステリに満足できなくなった、擦れたファンにおすすめ。