「10ドルだって大金だ」ジャック・リッチー

10ドルだって大金だ (KAWADE MYSTERY)

10ドルだって大金だ (KAWADE MYSTERY)

ミステリ。
「クライム・マシン」で2006年版このミス海外編1位を獲得したことも記憶に新しい、ジャック・リッチーの日本オリジナル傑作選。

作者の持ち味であるスマートな文体とツイストが効いた構成は、前短編集と同様。本作はより軽妙な作品が多く収録されていて、モッサリ感は皆無と言ってよい。

ただその分、本格としての構築性は(前作と比べて)やや落ちるか。

とは言えリッチー作品が持つ魅力はプロットの複雑さだけではない。テンポよく切れ味のある文章と無駄のない展開の端正さにこそリッチー作品の本質があると見る向きには、本作は間違いなく傑作と言える。

読書とはある種の錯覚を前提にした行為である。ジャック・リッチーはどうすれば読者にこころよい錯覚を与えうるのか、その呼吸を心得ていた作家なのだ。