季節の終り (ハヤカワ・ミステリ文庫)

季節の終り (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ハード・ボイルド。

僕がアルバートサムスンにもっとも近しいイメージを持つ探偵はライツビル以降のエラリー・クイーンだ。これはもう、そう思えてしまうのだからしかたがない。やはりクイーンはアメリカのミステリ作家として偉大な存在だと思う。崩壊する家庭の悲劇やサイコパスを扱った精神分析学的ミステリといった、その後アメリカを席巻するタイプのミステリをかなり早い段階から発表していることがその証左である。

本作においてサムスンの担う役割は「事件を観察し全体像を読者に提示するための名探偵」のそれであり、おのずと事件の性格は強い求心性を持ったものとなっている。

これは、「事件に対してメタなレベルから俯瞰出来る人物」を真相を看破した探偵以外にも想定せざるを得ないような性格の事件でないと犯人対探偵という二項対立の構図が崩れ、探偵がヒーローとして描かれる必要性すら疑わしくなるためだと考えられる。そう、サムスンはヒーローなのである。かつてのマーロウやリュウ、そしてエラリーがヒーローであったように。作者の他のシリーズキャラクター、パウダー警部補と比べると、よりサムスンのヒーロー性は際立つと思う。

本作はヒーローを描く物語としての探偵小説であり、事件を中心に据えた謎解き小説としての探偵小説でもある。そしてその両者の相性がいい事は偉大な先達が証明している。

エラリーが僕にとってのヒーローであるのと同様に、サムスンも僕にとってのヒーローなんだろう。