百番目の男 (文春文庫)

百番目の男 (文春文庫)

ミステリ。
本書はジャック・カーリィの第一作品にして、2005年度№1バカミスと評される怪作である。
はじめのうちは「過去のしがらみに現在も振りまわれている主人公が、現実の事件を捜査する内にトラウマと相対することになる」というハードボイルド風のテンプレに則っている点や、ストーリー展開が所謂サイコサスペンス的である点などから「典型的な現代アメリカミステリ」といった体裁の作品かと一見、思うだろう。しかし、クライマックスまで物語が進展したところで、そこにとんでもない真相が待ち構えていることを読者は知る。この衝撃(笑劇)の真相を以って、「2005年度№1バカミス」という称号を手にしたのだろう。常人には思いつけないネタである。
もちろん、丁寧にプロットされた伏線、読みやすい文体、(気の良いパートナーや分かり易く厭味な敵役や深刻なパーソナリティを持つ兄やヒロインなどといった)個性的な登場人物たちなどといった点も、本書の魅力であることは確かだ。だが、このラストの破壊力の前にはやや色を失ってしまう。
とはいえこの真相も、ただ一笑に付すだけではもったいないと個人的には考える。「フィジカルな「首切り」と死体に書かれたメンタルな「暗号文」という対照的なサインが、犯人の意図を悟った瞬間に付与された属性が反転してしまう」という構図に興味を覚えた。
構成もなかなか堅実で、実は本格テイスト強め。
前述したとおり、読みやすく楽しいミステリなので色々な人にお薦めしたいのであるが、それには色々支障を来たしそうな作品だといえるだろう。
バカミス好きの方には文句なくお薦めなのだけど。