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- 作者: 古川日出男
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/07/01
- メディア: 文庫
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舞台は18世紀のエジプト。ナポレオン率いるフランス軍の侵攻の気配をいち早く察知した支配階級奴隷アイユーヴは、主人であるカイロの知事(の1人)イスマーイールに『災厄の書』という一冊の本の存在を報告する。その言により「以前『災厄の書』を読んだものの一人は物語に没頭するあまり正気を保てなくなり失踪してしまったということ」「その『災厄の書』を(書痴として有名な)ナポレオンに与えればフランスは壊滅的な打撃を受けるであろうこと」「今現在その書のフランス語訳を進めるつもりであること」などが明らかになる。イスマーイールは自分の地位を向上させしかもフランス軍を撃退できるというその案を容れることにするのであるが……
以上が物語の発端である。意図的に重要な情報を伏せてあるが、それは読んでのお楽しみということで。
物語はこの後、「災厄の書」の内容とエジプトの情勢が1日ずつ交互に描写されるという構成になる。この構成が本書の肝である。読者は「災厄の書」パートの面白さによってその書が持つ能力に説得力(リアリティ)を感じるようになると同時に、現実のエジプトの切迫した事態を時を追って(当事者的な立場で)理解できるようになるのだ。 この「災厄の書」パートが圧倒的に面白い。ハッタリをきかせた設定に、バランスの良い構成、そこに古川節全開の文体が加わって最高のエンターテイメント作品に仕上がっている。
物語のラストで謎の真相が明かされたときに「ミステリとしても優れた構成だな」と感心した。
古川日出男の他の作品ではハッタリ(「大見得を切って法螺を吹く」ぐらいの意味と捉えてください)ばかりで中身が伴っていないように思えるものもあったが、本作はそのハッタリがスケールの大きさを創造しつつ絢爛な文体による描写で内面も埋め立てられていて満足度が高かった。
個人的にまったく好きな作家ではないけど、この作品はお薦め。