はなれわざ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

はなれわざ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミステリ。
大陸横断のツアー旅行に出掛けた我らがコックリル警部。一癖も二癖もある参加者たちに辟易していた彼であったが、イタリアに程近い地中海のリゾート地で殺人事件に出くわす。被害者はツアー客の内の1人であり容疑者はたったの7人。しかもその中には彼自身も含まれており、一度など容疑者として監獄に収容される始末。こうなっては地元の警察など信用できない。みずからの潔白を証明すべく事件の調査に乗り出すのであった……というのが前半のあらすじである。
物語内で登場する「煉瓦」の喩えに恥じぬ、大胆かつ必要十分なプロットの作品。本書はトリックとプロットと動機が渾然一体となった傑作である。畳み掛けるような結末(=解決編)もグッド。恩田陸の解説も他愛なくて微笑ましいです。
これはブランドの意図していたことどうか判らないけど、コックリルという探偵の特殊な立ち位置もまた興味深かった。仮説と事実の境界が曖昧というか。彼の推理がいつも正しいとは限らないので読者は彼の発言を鵜呑みにすることができない。しかし全く事実と異なるわけではなくある程度の妥当性も有しているから、無下に切って捨てることもできない。 その「ゆらぎ」が魅力といえば魅力なのですが、どこか座りが悪い(それもまた魅力になりえるのだけど)。