ミステリ。
私立探偵アルバート・サムスンが活躍するシリーズの第五作。貧乏だが誠実さを忘れない主人公が不幸な人間たちにもたらされた事件の解決に乗り出す。
本書は濃密なプロットと夥しい数の伏線によって造形された作品である。記憶力がない人間(つまり僕)には内容を把握することすら難しいほどに複雑な構造を持っている。「謎が謎を呼ぶ」というか腑に落ちない物を残したまま次の場面に進行するため、伏線や謎がどんどん蓄積していくのである。
しかし、テンポよく物語が進展するので読み進めるのは苦にならず、それよりも展開が滑らか過ぎて伏線をスルーしてしまう恐れの方が強い(僕が不注意な読者だからかもしれないが)。
登場人物は過去に縛られた人間ばかりである。彼らの現在は過去への精算か過去からの逃避に費やされ、行動が極端に固定化されている。探偵という職業の(及びミステリという文学ジャンルの)性質から必然的にサムスンは彼らの過去を日の下に晒す作業に奔走し、ついに謎が持つ因果関係を(伏線に沿うかたちで)明らかにする。
過去の行いに対して自分が現在とるべき態度について考えさせられる作品であるが、ラストはちょいと前向きでシメ。
私立探偵小説における傑作なのは間違いない。本格ファンにもオススメ。
ところで休暇を利用してネブラスカに行ったミラーはどうなりましたか。