キス・キス (異色作家短編集)

キス・キス (異色作家短編集)

異色作家短篇集。装丁の色使いが微妙になって再刊された例のシリーズの一巻目。
一癖ある(がゆえにリアルに感じられる)登場人物たちが皮肉な結末を迎える話が多数収録されている。
個人的には「ビスクビイ夫人と大佐のコート」の大胆な構成と「豚」のトリッキーな展開に興奮させられた。

この本の作者であるダールは非常に饒舌な語り手だ。
しつこいまでに繰り返し描写される登場人物の特異な性格や奇異な行動及び彼らの口を借りて述べられるペダンティックな蘊蓄の数々、これらが作品に通底する雰囲気(ブラックなユーモアとペーソス)と相まって独特かつ魅力的なダール固有の味わいへと作品を昇華させている。
しかも饒舌の効用は雰囲気づくりのみに止まらない。過剰に情報を流出させることによって、読者に対して物語の中心となる謎の所在や落としどころを曖昧なまま話を進めることが可能になる。つまり(比較的展開が予想し易い話でも)焦点をしぼらせにくくすることによって、ラストまで読者を翻弄しつつも惹きつけるというテクニック。
これがうまくハマったときのダールは本当に面白い。今までぼやけていた(でもうっすらと見える)全景がラストシーンでピントをばっちり合わせられるようなあの感覚は他の作家では得がたいものである。
蛇足だが、解説は解説していなかった。