魔王

魔王

面白かった。
読んだとき本書の構成をよく知らず「魔王」だけで終わるのかと思ってビビッたのだけど「呼吸」がその続編だったので一安心。でも「呼吸」がなかったらなかったでそれも良いかもしれません。
感想終わり。
以下は伊坂作品について考えたこと。
伊坂幸太郎という作家はキャラクターを単純化して描く作家である。
それは悪役に顕著であり、伊坂作品における「悪役」は内面を描かれない、ただひたすらに嫌なやつばかりだ。翻って他の登場人物はというと、主人公(語り手)以外の人物が複雑な行動原理を有していることは稀である。
つまりみんなシンプルに造形されている。
といっても、類型的というわけではない。話の流れを調節する役割の担い手である彼らは、現実の人間たちよりも極端な性格で突飛な行動(言動)をとり、またそれ故一義的な存在となっている。
本書では「大衆」「政治家」「兄弟」が主な登場人物であるが、このうち「大衆」は現実の一般大衆を極端化、単純化させたものであり、「政治家」は「大衆」の愚かさに付け込む存在、「兄弟」はそれらに対するアンチテーゼとしての存在である。作者はこれらの登場人物を適当に配置して、シミュレートさせたものを作品として発表したのでは。



私見だが、本書は伊坂の「大衆(衆愚性)」に対しての本質直観に由来する作品だと思う。後書きで述べられているように「ファシズム」「政治」が二次的な要素なのは、その直観ありきの作品だからではないだろうか。
…「だから何?」って突っ込みが来そうだ。